日本全国の名酒場を探訪してきた太田和彦がかつて説いた「居酒屋の美学」や、吉田類が『吉田類の酒場放浪記』で魅せてきた酒場への慈しみは、この街の片隅にも色濃く受け継がれている。名物のポテトサラダひとつ取っても、自家製マヨネーズの酸味や燻製ベーコンの利かせ方に各店の矜持が光る。
黒板に手書きされた本日のおすすめ短冊を眺め、常温の日本酒を傾ける。派手な演出など一切ない。ただ、丁寧にとられた出汁の旨味と、選び抜かれた地酒があればそれで十分なのだ。グラスを傾ける手元に宿る静かな幸福感は、長年愛され続けてきた本物の酒場だけが放つ特権的な空気といえる。