生物学的な観点からなぜ人を愛するのか 科学の視点を広げると、ヒトという種の進化史に突き当たります。人間の赤子は他の哺乳類に比べて極めて未熟な状態で生まれ、自立するまでに十数年という膨大な時間とエネルギーを必要とします。この過酷な子育てを成功させるため、進化の過程で「特定のパートナーや集団と強固な絆を結び、協力して次世代を守る」という愛情が湧くメカニズムが脳に組み込まれました。
一方、愛の起源 哲学の領域においても、愛は人間の不完全さを克服するための衝動として論じられてきました。古代ギリシャの哲学者プラトンは著書『饗宴』の中で、人間はかつて2人で1つの存在であったが、神によって引き裂かれたため、失われた半身を激しく求め続けるのだという神話(アンドロギュノスの神話)を紹介しました。
また、20世紀の社会心理学者エーリッヒ・フロムは名著『愛するということ(The Art of Loving)』において、「愛は単なる気まぐれな感情ではなく、知識と努力を要する技術(アート)である」と喝破しました。愛はどこからともなく自動的に降ってくる受動的な奇跡ではなく、孤立という人間の根本的な不安を乗り越えるために、自らの内側から能動的に育て上げる意志の力であると説いたのです。