文学の薫り高い安田屋旅館ですが、2010年代半ば以降、もう一つの大きな文化的潮流を受け入れることになりました。それが『ラブライブ!サンシャイン!!』における主人公・高海千歌の実家「十千万(とちまん)旅館」のモデルとなったことです。
作中に登場する印象的な玄関の門構え、海を望むロビー、館内の意匠は驚くほど忠実に再現されており、放送開始直後から多くのファンが「聖地巡礼」として訪れるようになりました。特筆すべきは、一過性のブームに終わることなく、地元沼津・内浦のコミュニティとファンが10年以上にわたって温かな信頼関係を築き上げてきた点です。
玄関先にさりげなく飾られたキャラクターグッズや交流ノートは、歴史ある老舗旅館の厳かな佇まいと不思議な調和を見せています。太宰治を慕って訪れる年配の文学愛好家と、アニメカルチャーを愛する若い旅人が同じ湯に浸かり、同じ駿河湾の絶景を眺める光景は、現代の日本ツーリズムにおける極めて幸福な共生例と言えます。