佐伯チズ氏の生涯は、決して順風満帆なエリートコースばかりではありませんでした。1943年6月23日、滋賀県に生まれた彼女は、幼少期に映画女優オードリー・ヘプバーンに深い憧れを抱き、美の探求を志します。美容学校を卒業後、牛山清人氏(ハリウッド化粧品創業者)のもとで基礎を学び、その後「ゲラン」「パルファン・クリスチャン・ディオール」などの世界的トップメゾンでトレーニングディレクターや広報として手腕を振るいました。
私生活では最愛の夫を病で亡くし、失意のあまり自らの肌もボロボロになるという極限の精神的ショックを経験。しかし、そこから「肌は手をかければ必ず応えてくれる」という実体験を通じて立ち直り、自らの美容理論を体系化していきました。定年退職を迎えた60歳を機に独立すると、2003年に上梓した『美肌革命』が空前の大ベストセラーを記録。「美肌のカリスマ」としてテレビや雑誌に連日引っ張りだことなり、銀座に総合プロデュースサロン「サロン・ド・ルポテ」を開設、オリジナルブランド「チズビー(CHIZBY)」を展開するなど、精力的な活動を続けました。
2020年3月、佐伯氏は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の罹患を公の場で公表しました。身体の自由が徐々に奪われていく過酷な病魔に直面しながらも、「最後まで美しく、夢と希望を諦めない姿を見せたい」と発信を続けた姿勢は、日本中に大きな感動と勇気を与えました。そして同年6月5日、享年76歳でその生涯を閉じました。最期まで自らの美学を貫き通した生き様は、現在も美容史におけるひとつの金字塔として称えられています。