SNSやネット掲示板、心理相談室の窓口には、理性では関係の破綻を認識していながらも、物理的な別れに踏み切れない当事者の悲痛な告白が溢れています。「相手から暴言を吐かれ、消費者金融で借金まで肩代わりさせられているのに、優しく抱きしめられた瞬間にすべてを許してしまう」――知恵袋や相談コミュニティで見られるこうした事例は、決して特異な例外ではありません。
臨床の場において脱却を阻む最大の要因として挙げられるのが、サンクコスト効果と心理的禁断症状の重複です。時間、感情、金銭を投資すればするほど、「ここで別れたら今までの我慢がすべて無駄になる」「自分が去れば相手は立ち直れないのではないか」という認知の歪みが強化されます。
さらに、一時的に連絡を断とうとすると、アルコールやギャンブル中毒の禁断症状と同じく、強い身体的不調(不眠、吐き気、激しい焦燥感)が当事者を襲います。「別れの苦痛」に耐えかねた脳が、手っ取り早く苦しみを鎮めるために「相手の元へ戻る」という誤った鎮痛剤を求めてしまうのです。この生理的・心理的なトラップこそが、周囲からの「そんな相手とは早く別れなさい」という正論を無力化させてしまう現場の実態です。