ネットの掲示板やSNS上で周期的に浮上するのが、「ちきゅうが海底を掘削した直後に地震が発生した」「人工地震を起こすための秘密兵器ではないか」という陰謀論です。こうした言説に対して、編集部では地球深部探査船ちきゅう噂の真相を科学的見地から徹底追跡しました。結論から述べれば、この疑惑は完全なる人工地震デマ検証の対象であり、物理法則を無視した事実無根の言説です。
まず、掘削孔のスケール問題があります。「ちきゅう」が掘削する穴の直径は、最も太い部分でも約50センチメートル、深部に至ればわずか数十センチメートル程度に過ぎません。これに対し、マグニチュード8〜9クラスの巨大地震が発生する断層の破壊面積は、長さ数百キロメートル、幅数十キロメートルという途方もない体積を持ちます。直径数十センチメートルの細いパイプで小さな穴を掘ったところで、広大なプレート境界に蓄積された歪みエネルギーを人工的に誘発・解放することは物理的に不可能です。
また、地下で核爆弾を爆破させているという主張も散見されますが、日本周辺には防災科研(NIED)の高感度地震観測網(Hi-net)をはじめとする世界で最も高密度な地震計ネットワークが張り巡らされています。核爆発特有の初動P波が全方位へ圧縮波として広がる波形や爆発性振動は即座に検知され、自然地震特有のS波優位の断層すべり波形とは明確に識別されます。何千人もの科学者や国際監視機関の目を逃れて核爆弾を深海底に埋設・起爆することなど、情報統制の観点からも100%不可能です。
「ちきゅうが作業していた場所で地震が起きた」という言説のトリックは、極めて単純な因果関係の逆転です。「ちきゅう」の任務は南海トラフ巨大地震調査であり、そもそも過去に大地震が繰り返し発生し、現在も微小地震が頻発している震源域の真上を意図的に選んで調査しています。頻発地帯にいれば、滞在中に地震に遭遇する確率が高いのは自明の理であり、これを「掘ったから地震が起きた」と結びつけるのは、救急車の出動先で人が倒れているのを見て「救急車が病気をもたらしている」と騒ぎ立てるような誤謬に過ぎません。