読者の間で今なお深い議論を呼ぶのが、医者として無惨討伐薬を開発し、自らの肉体を囮にして散った珠世の地獄行きです。彼女の功績がなければ鬼殺隊の勝利はあり得ませんでした。しかし珠世自身は、鬼にされた直後に自制を失い、最愛の夫と我が子を喰い殺してしまった過去を決して忘れていませんでした。
珠世は自らを「大勢の人間を殺めた罪人」と定義し、最初から天国へ行く気など毛頭なく、無惨を道連れに地獄で償うことを行動原理としていたのです。遺された愈史郎は、彼女の想いを背負って画家となり、珠世の美しさと生きた証をキャンバスに描き続ける道を選びました。自らの罪から目を背けず地獄を受け入れた珠世の高潔さは、本作における「責任と贖罪」のテーマを最も気高く体現しています。