自宅の庭木や市民農園で梅を収穫する場合、何を見て熟度を判断すればよいのでしょうか。紀州のベテラン生産者が語る「木の声を聞く」という経験則には、明確な植物生理学的根拠が存在します。
青梅の収穫時期を見極めるサインは、果皮の色調と張り、そして「なり口(ヘタの窪み)」の形状です。未熟な梅は実が細長く、ヘタ周辺が平坦ですが、収穫適期を迎えた青梅は実全体がふっくらと丸みを帯び、なり口が深く窪んできます。色は深いエメラルドグリーンから、わずかに白みがかった明るい黄緑色へと変化します。指先で軽く押してもびくともしない硬度があり、果皮にピンとした強い緊張感がある状態がベストです。
一方、完熟梅の収穫サインは、目よりも「鼻」と「触覚」で察知できます。梅干しに最適な完熟期を迎えると、樹全体からアンズや熟した桃に似た甘く華やかな芳香が漂い始めます。果皮は黄色く色付き、南高梅などの品種では太陽の光を浴びた部分が美しい紅色(紅サシ)に染まります。
そして決定的なシグナルが、果柄(軸)と枝の接合部に形成される「離層(りそう)」です。梅は完熟すると、自ら子孫(種)を地上へ落とすために枝との結合を解く細胞層を作ります。本場・和歌山の農家が「青い実を無理に引っ張るな。樹が実を送り出す合図を待て」と口を揃えるように、収穫適期に達した完熟梅は、果実に手を添えて軽く上や横へ傾けるだけで、パチンと音もなく手の中に吸い込まれるように外れます。力任せに引っ張らないと取れない梅は、まだ樹上完熟には至っていません。