広瀬すずが本作のオーディションを受けたのは2013年末、中学3年生の15歳の冬でした。クランクインを迎えた2014年春の時点でも15歳であり、物語の季節の移ろいとともに約8ヶ月間に及ぶ四季のロケを重ねる中、2014年6月19日に16歳の誕生日を現場で迎えています。そして、第68回カンヌ国際映画祭への出品を経て日本公開を迎えた2015年6月には17歳へと成長を遂げていました。少女から大人の女優へと脱皮する、一生に一度しかない刹那の輝きがフィルムに焼き付けられています。
そして本作を語る上で欠かせないのが、是枝作品の代名詞ともいえる「台本なし」という演出手法です。ただし、ネット上で広く誤解されている点として「キャスト全員が台本を持っていなかった」わけではありません。長女役の綾瀬はるか、次女役の長澤まさみ、三女役の夏帆の3名には完成された脚本が手渡されており、台本を一切渡されなかったのは広瀬すずただ一人でした。
是枝監督はかつて『誰も知らない』で柳楽優弥に見せたように、子役や若年層の演者に対して現場で台詞を口頭で耳打ちする「口立て」という手法を採用しました。朝、現場に入ると監督から「今日はこういう場面だから、姉ちゃんたちにこう言ってみて」と小さな声で告げられます。そのため広瀬すずは、姉たちから発せられる台詞や感情の揺らぎを、事前に予測した演技としてではなく、目の前で起きた生身の出来事として受け止め、反射的に言葉を返していました。
この演出意図について、広瀬すずは後のインタビューで「最初は不安で仕方がなかったけれど、姉さんたちが本当のお姉ちゃんのように包み込んでくれたからこそ、頭で考えずにその場に生きることができた」と語っています。作られた芝居を削ぎ落とし、15歳の少女が抱く戸惑いや喜びがそのまま記録されたことこそが、本作を唯一無二の傑作へと押し上げた決定的な要因でした。