莫大な収入を得ているトップスターであれば、1本数十万円から数百万円する自由診療のインプラント治療を容易に選択できるように思えます。しかし、実際にはあえてインプラントを避け、部分入れ歯やブリッジを選択する芸能人が後を絶ちません。そこには、医療的および職業的な明確な理由が存在します。
まず理解しておきたいのが、差し歯、インプラント、部分入れ歯の根本的な構造の違いです。差し歯は自前の「歯の根(歯根)」が残っている場合に土台を立てて人工歯を被せる治療法です。一方、インプラントは歯根が存在しない顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込む外科手術を伴います。これに対し、部分入れ歯は周囲の残存歯に留め具をかけて人工歯を固定する着脱式の装置です。
芸能人がインプラントを回避する最大の理由は、外科手術に伴うリスクとダウンタイムにあります。インプラントを埋入する際、下顎では神経損傷による下唇の麻痺リスク、上顎では副鼻腔(上顎洞)を傷つけるリスクがゼロではありません。声や表情、繊細な発音が商売道具である表現者にとって、万が一の神経麻痺はタレント生命を揺るがす致命傷になり得ます。
加えて、長期にわたる過密スケジュールの中で、術後の強い腫れや内出血(皮下出血斑)を抱えてテレビ収録や舞台に立つことは極めて困難です。また、過去に重度の歯周病を患っていた場合、顎の骨(歯槽骨)が大幅に痩せており、骨造成手術を行わなければインプラントを固定できないケースも珍しくありません。体への侵襲を最小限に抑え、いつでも元の状態に戻せる可逆的な治療として、高精度な部分入れ歯を選ぶことは極めて合理的かつ堅実な選択肢なのです。