矢柴俊博の卓越した演技力を語る上で欠かせないのが、その知性と泥臭い現場経験が融合した特異なキャリアです。埼玉県草加市出身の彼は、県内屈指の超進学校として知られる埼玉県立浦和高等学校を卒業後、早稲田大学第一文学部フランス文学専修へと進学しました。
早稲田大学在学中に演劇の魅力に取り憑かれた矢柴は、学生演劇の熱気に身を投じます。そして大学卒業後、俳優として本格的な転機となったのが、中村育二が主宰していた伝説的な男6人組の演劇ユニット「劇団カクスコ」への参加でした。
カクスコは、市井の男たちが織りなす何気ない日常会話のズレや哀愁を、徹底したリアリズムと絶妙な間口で描き出す劇団として演劇界でカルト的な人気を誇りました。大がかりな舞台装置や派手な演出に頼らず、役者の身体性と台詞のテンポだけで観客を惹きつける環境で揉まれた経験こそが、現在の「どんな役でも一瞬でその場に実在させる」矢柴の演技の骨格を形成したのです。2002年の劇団解散以降、彼は活動の主軸を映像の世界へと移し、瞬く間に映像業界に欠かせない存在へと駆け上がっていきました。