タガメを口に運んだ人が一様に驚くのは、鼻腔を一気に突き抜ける芳醇なフルーツの香りです。昆虫特有の泥臭さや青臭さは一切なく、完熟した洋梨やマスカット、バナナを凝縮したようなトロピカルなアロマが広がります。このタガメ料理の味と風味の核となっているのが、成虫の雄が持つ特殊な臭腺です。
このタガメが洋梨の香りを放つ理由は、雄が雌を引き寄せるために腹部から分泌するタガメのオスフェロモンにあります。分泌物には「ヘキセニルアセテート(酢酸ヘキセニル)」や「ブチルアセテート」といった果実の香気成分と同一の化合物が豊富に含まれており、これが天然のフレーバーとして機能しているのです。
一方で、雌にはこの臭腺がないため、雄のような鮮烈な香りはありません。雌は香りが控えめな分、プチプチとした卵の食感や淡白な肉の旨味を楽しむ食材として重宝されますが、「香りを味わうタガメ料理」の主役は間違いなく雄の個体です。