これほどまでに豪華なキャストが結集し、しかもそれぞれが自己主張することなく絶妙なハーモニーを奏でられた背景には、是枝裕和監督の妥協なき作家性と卓越した演出哲学が存在します。
原作である吉田秋生氏の同名コミックは、第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞やマンガ大賞2013を受賞した最高峰の傑作。映画化にあたっては数々の制作会社が名乗りを上げましたが、原作者側が最終的に首を縦に振ったのは是枝監督の「鎌倉の四季を実際に時間をかけて撮り、姉妹の身体感覚をカメラに収める」という誠実な構想でした。この監督の熱意と原作のブランド力に応える形で、東宝を中心とする製作陣は当時すでに主役級だった綾瀬はるかと長澤まさみのキャスティングに踏み切ったのです。
なかでも後世に語り継がれるのが、四女・すず役に当時10代半ばだった広瀬すずが抜擢された真相です。是枝監督は当時のオーディションを振り返り、自著やインタビューで次のように語っています。
「部屋に入ってきた瞬間に、部屋の空気が変わった。技術的な芝居の上手さではなく、彼女自身が持っている内省的な影と、ふとした瞬間に見せる瑞々しい光。すずという少女が背負っている『ここにいていいのだろうか』という所在なさの表現において、彼女以外の選択肢はなかった」
さらに現場で徹底されたのが、子役演出で知られる「台本を事前に渡さない手法」でした。広瀬すずに対しては現場でその都度、監督が耳元で状況とセリフを囁き、他の3姉妹がそれに対して自然にリアクションを起こすという演出が採用されました。この手法により、演技を超えた「本当の居心地の悪さ」や「姉たちに受け入れられた瞬間の本物の笑顔」がフィルムに刻み込まれ、広瀬すずという稀代の才能が日本中に知れ渡る決定打となったのです。