国語辞書を引くと、肩で息をする意味は「息苦しそうに肩を上下させて激しく呼吸すること」「ひどく疲れて苦しそうなさま」と説明されます。この表現は明治期以降の近代文学や演劇のト書きなどでも多用され、極限の疲労や精神的な追い詰められ方を視覚的に伝える決まり文句として機能してきました。
身体反応の観点から見ると、肩で息をする心理には強い情動ストレスが深く関係しています。ヒトは激しい怒り、パニック、あるいは恐怖に直面すると、交感神経が急激に優位になります。戦うか逃げるか(闘争・逃走反応)の態勢に入った身体は心拍数を跳ね上げ、短時間で大量の酸素を筋組織へ送り込もうとするため、呼吸が浅く速い胸式呼吸へとシフトします。過度なプレゼン前の緊張やパニック発作の初期に、無意識のうちに肩をすくめるようにして息を吸ってしまうのは、自律神経の急変が筋緊張を引き起こしている証左です。
ただし、感情の昂ぶりによる過換気であれば、気持ちの鎮静とともに呼吸は腹式呼吸へと戻ります。問題なのは、激しい感情の揺らぎや運動負荷が存在しない状況下で、自然な呼吸が破綻し、肩を上下動させ続けなければならないケースです。ここから先は、心理的な領域を完全に超えた器質的疾患のサインとなります。