顕微鏡を覗けば、両者の世界は完全に分かれている。近代微生物学の父と呼ばれるロベルト・コッホや、破傷風菌の純粋培養に成功した北里柴三郎が格闘してきた相手、それが「細菌」だ。細菌は、細胞膜や細胞壁、自前のDNA、そしてタンパク質を合成するリボソームを備えた、完結した単細胞生物である。水と栄養さえあれば、彼らは自律的に分裂し、1個から数百万個へと爆発的に増殖していく。大きさはおよそ1〜5マイクロメートル。光学顕微鏡でその輪郭をはっきりと捉えられるサイズだ。
一方のウイルスは、生物学の教科書において「生物と非生物の狭間」に位置づけられる。細菌の100分の1から1000分の1、わずか数十から数百ナノメートルという極小のサイズしか持たない。彼らは細胞を持たない。自らエネルギーを生み出す代謝システムも、タンパク質を組み立てる工場も持たない。DNAまたはRNAという遺伝情報を、タンパク質の殻(キャプシド)で包んだだけの極めてシンプルな構造体に過ぎない。
ウイルス単体では呼吸も増殖もできない。ただの不活性な粒子だ。しかし、ひとたびヒトの粘膜細胞に侵入すると、その牙を剥く。宿主の細胞表面にある受容体に結合し、内部へ侵入すると、ヒトの細胞内にある複製装置を完全にハイジャックするのだ。自らのコピーを何千、何万と作らせ、最後は宿主の細胞を破壊して次の標的へと拡散していく。この「自力で生きられるか」「宿主の命を借りなければ増えられないか」という増殖プロセスの違いこそが、治療法を二分する最大の分岐点となる。