「お金があれば何でも買える」という現代の常識は、1945年の日本には通用しませんでした。終戦直前の日本本土では配給制度が完全に破綻し、市場には商品そのものが存在しない「物資の絶対的枯渇」が起きていたためです。
清太が防空壕を出て農家に米を買いに行くシーンで、農民は冷淡に清太を追い返します。ここで描かれたのは、単なる農民の冷たさではなく、「紙幣の無価値化」と「現物経済(物々交換)へのシフト」という当時の経済的現実でした。
農家側から見れば、いつ紙くずになるか分からない円紙幣を受け取るメリットはありませんでした。農家が求めていたのは、上等な着物や貴金属、農機具などの「実物資産」でした。劇中で叔母が清太の母の着物を米に換えた際、農家が喜んで応じたのは着物に確固たる交換価値があったからです。清太自身が持っていた現金7000円は、食料難が極まった地域社会では買い手がつかない無力な紙片と化していたのです。
さらに歴史的な事実として、終戦翌年の1946年(昭和21年)には預金封鎖と新円切り替えが断行されます。旧円紙幣の流通が強制停止され、預金からの引き出し額が極端に制限されるという未曾有の金融混乱が待ち受けていました。清太が手元に置いた紙幣は、構造的にも急速に死に金へ向かっていた時期でした。