彩玉梨が「埼玉県産 幻の梨」と呼ばれる所以は、そのシビアな収穫期間と流通構造に隠されています。収穫のピークは8月下旬から9月上旬のわずか15〜20日間程度。この限られた期間に成熟した果実を一斉に収穫しなければなりません。
埼玉県内の主要産地である白岡市、久喜市(旧菖蒲町)、加須市、上尾市などの果樹園を取材すると、生産現場の切実な裏事情が浮かび上がってきます。地元生産者は次のように証言します。
「彩玉は木の上でしっかり熟すまで待つことで、独特の芳醇な甘みと果汁が生まれます。しかし、大玉で果皮が繊細なため、完熟に近い状態で長距離輸送すると果肉が傷みやすい。しかも収穫期が短期間に集中するため、東京の大手卸売市場に大規模ロットで流す余裕がなく、直売所や地元の予約分だけで大半が消えてしまうのが現実です」
実際、県内の生産者直売所やJAの集荷場には、早朝から県内外のナンバープレートをつけた車が列をなし、午前中のうちに当日の販売分が完売することも珍しくありません。地元消費者がその美味しさを熟知しており、産地で即日完売してしまう構造こそが、全国的なスーパー店頭で見かけない決定的な理由です。