歴史の記録を紐解けば、絶世の美女の象徴として引き合いに出される人物たちの実情は、巷のイメージとは大きくかけ離れている。唐を揺るがした安史の乱の渦中で非業の死を遂げたとされる楊貴妃。彼女の最期は確かに悲劇的であり、幾重もの歴史劇の題材として消費されてきた。だが、当時の過酷な宮廷闘争において、政治のスケープゴートにされたのは彼女の美貌そのものというより、一族の権力闘争の結果に過ぎない。
一方、平安時代の六歌仙の一人である小野小町に至っては、晩年に乞食となって野垂れ死んだという伝承すらある。だがこれも後代の能楽や説話が創出した見事なフィクションだ。彼女の生没年は諸説あるものの、実際にはかなりの高齢まで生きたとする研究が有力視されている。美の絶頂期を過ぎた女性が零落していく姿を見たいという、世俗の残酷な視線が虚構を補強したのだ。