なぜこれらの項目は「妊娠前」でなければならないのでしょうか。そこには、妊婦の身体構造の変化と医学的な厳格ルールが存在します。
第一に歯科治療です。妊娠中は女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)の血中濃度が急上昇し、歯周病菌が増殖しやすい口腔環境に変化します。これにつわりによるブラッシング不足が重なり、歯肉炎の罹患率は格段に跳ね上がります。日本臨床歯周病学会などの調査データによると、重度の歯周病を患う妊婦の早産・低体重児出産リスクは、健常な妊婦の約2.8倍に達することが判明しています。さらに、妊娠初期および後期は抜歯手術や抗生剤の投与に厳しい制約がかかるため、親知らずの抜歯を含む根治治療は受胎前が唯一の安全地帯となります。
第二に医療保険の引き受け基準です。厚生労働省の医療施設静態調査によると、現在の日本における帝王切開割合は約4人に1人(約27%)に達しており、決して珍しい事態ではありません。しかし民間保険会社各社の審査規定では、妊娠発覚後の加入に対して「子宮部位の不担保(1〜5年間、帝王切開や切迫早産による入院給付金を支払わない)」という特別条件が付加されるのが通例です。異常分娩のリスクに備えるならば、検査薬で陽性反応が出る前の無条件加入が鉄則となります。
第三に風疹抗体です。妊娠20週頃までの初期に風疹ウイルスへ初感染すると、胎児に難聴、白内障、先天性心疾患を惹起する「先天性風疹症候群(CRS)」を発症する危険性が極めて高くなります。風疹ワクチン(MR混合ワクチン)は生ワクチンであるため、接種後は約2か月の厳格な避妊期間が必要であり、妊娠中の接種は絶対に認められていません。パートナーを含めた事前検査と接種が命を守る防波堤となります。