石田長栄堂が世に送り出した出版物の数々は、現在も古書愛好家やグラフィックデザイナーの間で熱烈な支持を集めています。そのラインナップは実用的な工芸図案から大衆向けの観光メディアまで多岐にわたり、当時の視覚文化の豊かさを今に伝えています。
代表的な出版物として挙げられるのが、大正期から昭和初期にかけて刊行された染織図案集や意匠見本帳です。これらは西陣の織工や友禅の絵師が図案の参考にするための専門書であり、鮮やかな顔料を用いた多色刷りや金銀泥を惜しみなく使った豪華な装丁が施されていました。当時の職人が手元で使い込んだため現存数が限られており、保存状態の良いものは神田神保町や京都古書会館の専門古書市で数万円から十数万円のプレミアム価格で取引されるケースが目立ちます。
さらに、大正デモクラシー期に一大ブームを巻き起こした「美術絵葉書」や「京都名所案内記」も、石田長栄堂の技術力を示す重要な遺産です。京都の名所旧跡を情緒豊かに描いた風景版画調の印刷物は、観光客の土産物としてだけでなく、新時代のグラフィックアートとしても高い評価を獲得しました。インクの重ね刷りによる立体感や、繊細な階調表現は、現代のデジタルオフセット印刷と比較しても遜色ない深みを漂わせています。