浜木綿子は、父のいない家庭で育つ息子が不自由しないよう、教育に並々ならぬ情熱を注ぎました。小学校から名門・慶應義塾に通わせ、香川照之は見事に東京大学文学部を卒業します。母親としてこれ以上ない英才教育を全うした瞬間でした。
しかし、大学卒業後に息子が選んだ道は「俳優」でした。当初、芸能界入りに難色を示した浜木綿子でしたが、息子の固い決意を知ると、陰ながらその背中を押し続けます。香川照之は圧倒的な演技力で瞬く間に日本を代表する実力派俳優へと上り詰めました。
二人の関係に再び大きな転機が訪れたのは2011年のことです。香川照之が46歳にして九代目市川中車を襲名し、歌舞伎界へ進出することを発表した時でした。かつて自分と母を捨てた父・猿翁の世界へと飛び込むという息子の決断は、浜木綿子にとって複雑極まりないものでした。
一部メディアでは母子の確執も取り沙汰されましたが、真相は異なります。浜木綿子は息子の「澤瀉屋の血を孫へと繋ぎたい」という役者としての執念を深く理解し、最終的には「あなたが決めた道なら全うしなさい」と送り出したのです。裏切りを受けた歌舞伎界という場所すらも受け入れた母の愛の深さは、まさに壮絶な人生を歩んできた彼女だからこその器の大きさを示しています。