静寂を切り裂く「キエーーッ!」「ギャーッ!」という耳をつんざくような鳴き声は、英語圏で「Vixen's scream(メスキツネの叫び)」と呼ばれ、海外でもホラー映画の効果音と聞き間違えられるほど有名な現象です。日本国内でも、都市近郊や新興住宅地に生息域を広げたホンドギツネやキタキツネの鳴き声が原因で、深夜の110番通報に発展するケースが後を絶ちません。
この悲鳴のような鳴き声が響き渡る最大の理由は、主に冬期(12月下旬から3月上旬)にピークを迎える「発情期」にあります。キツネは基本的に単独で広大な縄張りを持って生活する動物ですが、年に一度の繁殖期になると、メスは遠くにいるオスへ自分の居場所と交尾の準備が整ったことを知らせるために、極めて高周波で遠くまで届く叫び声を上げます。この声は数キロメートル先まで届くほど強力で、人間の聴覚には「女性が助けを求めて叫んでいる声」と酷似して聞こえてしまうのです。
さらに、繁殖相手を巡るオス同士の激しい縄張り争いや接近戦における威嚇(いかく)行動でも、この金切り声が多用されます。相手を威圧するために口を大きく開けて喉の奥から絞り出すような叫び声を連続して浴びせ合うため、深夜の住宅街に突如として凄惨な争いの気配が漂うことになります。