「特定の人に配るのだから、役所の会議資料は『配付』が正しい」と考えていると、大きな罠にはまることになります。ここに、行政文書と国語辞書の間に横たわる決定的なねじれが存在します。
公用文・法令では「配布」への統一が原則
官公庁が作成する公用文や法律・政令などの法令用語においては、「配付」の表記は原則として使用されず、「配布」に統一されています。その明確な根拠となっているのが、内閣法制局を中心に定められた「法令用語改正要領(昭和29年11月)」です。
この要領では、難解な同音異義語を整理し、行政文書の平易化・標準化を進める目的から、「配付」を「配布」に吸収して一本化する方針が打ち出されました。そのため、国の公文書や国会提出法案、裁判所関連文書においては、どれほど対象者が限定された会議資料であっても「配布」と記すのが正規のルールとなっています。
NHK放送文化研究所や報道機関の統一基準
メディア業界における表記統一も、行政の合理化と足並みを揃えています。NHK放送文化研究所の解説資料によると、放送現場で視聴者が耳で聞いた際の混乱を防ぎ、テロップ等の表記揺れを抑制するため、原則として「配布」に統一する運用が定着しています。一般紙の校閲基準においても、特別な歴史的固有名詞や固まった引用を除き、不特定・特定を問わず「配布」で代用することを認めているケースが大半です。