物語の中盤で提示される最大の謎が、施錠された完全な密室殺人事件である。窓もドアも内側から強固に閉ざされ、物理的な侵入の痕跡は一切存在しない。現場に残されたトランプは単なる嫌がらせの小道具ではなく、犯行時刻や殺害手順を示す極めて精巧な暗号として機能していた。
劇中に散りばめられた伏線は、初見で見抜くことが困難なほど繊細だ。被害者の部屋に飾られていた絵画の傾き、書斎の時計がわずか三分だけ進んでいた理由、そして被害者が死の間際に残した「数字の言い間違い」。これらはすべて、犯人が完璧なアリバイを構築するために仕掛けた壮大なトリックのピースであった。緑川警部がそれらの矛盾を一つずつ解き明かしていく過程は、極上の知的快感をもたらす。