方言調査において「おいでや」の分布を追うと、大きく分けて2つの主要な文化圏に行き着きます。ひとつは近畿一円に広がる関西弁圏、もうひとつは瀬戸内海を挟んだ四国・愛媛県の伊予弁圏です。どちらの地域でも日常的に交わされる言葉ですが、その根底にある語感や文脈には興味深い地域差が存在します。
関西弁における「おいでや」は、基本的に「こっちに来て」「寄っていきなよ」という気軽な呼びかけや勧誘を指します。家族や友人、あるいは気の置けない同僚に対して距離を縮めるために用いられ、会話の潤滑油として機能しています。たとえば大阪の街角で「今からみんなでご飯食べるから、あんたもおいでや」と言われた場合、純粋な歓迎とフレンドリーな誘いのサインに他なりません。
一方、愛媛県(特に中予地方・松山市周辺)における伊予弁の「おいでや」は、観光PRのキャッチコピー「おいでや愛媛」などでも広く知られる通り、土地柄を象徴する代表的な言葉です。愛媛では「いらっしゃい」「ようこそ」という来訪歓迎のニュアンスを含みつつも、四国特有のおっとりとした長閑なイントネーションで発音されます。関西弁がテンポよく相手の背中を押すニュアンスを持つのに対し、伊予弁の「おいでや」は相手を包み込むような温和な余韻を残す点に特色があります。