ムスカという稀代の悪役に不滅の命を吹き込んだのは、2024年に惜しまれつつ世を去った名優・寺田農氏です。重厚な舞台やドラマで活躍していた寺田氏のアフレコ裏話は、ファンの間でも非常に有名です。
当時、アニメのアフレコ経験がほとんどなかった寺田氏は、未完成の線画が並ぶモニターを見ながら、宮崎監督の細かな指示に従って収録を進めました。生前のインタビューによると、寺田氏自身は役作りに過度な気負いを持つことなく、台本の言葉を淡々と的確に声に乗せていったと語られています。
アニメ的な誇張を排した舞台俳優ならではの明瞭な発声と、どこか理知的で温度感の低いトーンが、かえってムスカの冷酷さと狂気を際立たせる結果となりました。過剰に怒鳴るのではなく、心底楽しそうに「人がゴミのようだ」と言い放つあの独特のニュアンスは、寺田農氏の類まれな表現力があってこそ完成した奇跡のテイクです。