生後8ヶ月や9ヶ月を迎えてもハイハイをしない赤ちゃんに対して、「発達に遅れがあるのではないか」と不安を抱くケースは少なくありません。しかし、赤ちゃんがハイハイしない理由には、病気や異常ではなく、生活環境や身体的な個性によるものが大半を占めています。
現代の住環境における大きな要因の一つが「フローリングの滑りやすさ」です。ツルツルした床面では膝が滑って踏ん張りが利かず、お腹を持ち上げるのが難しいため、ずり這いのまま移動を続ける赤ちゃんが増えています。また、ベビーサークルや家具が密集している部屋では、少し手を伸ばせば掴まれる場所があるため、四つ這いを覚える前にハイハイとつかまり立ちの順番が入れ替わり、直接立ち上がってしまう現象が自然に起こります。
さらに注目されるのが、座ったまま移動するシャフリングベビー(Shuffling Baby)の特徴です。うつ伏せの姿勢を極端に嫌がり、お座りの状態から両手やお尻、足の裏を使って器用に床を滑るように進みます。これは運動発達のバリエーションの一つであり、親からの遺伝的素因や、赤ちゃんの「うつ伏せ姿勢に対する感覚過敏」などが背景にあります。シャフリングベビーは歩行の開始が1歳半から2歳頃と遅めになる傾向がありますが、知的発達やその後の運動能力には何ら問題がないことが医学的に証明されています。
「ハイハイを飛ばす影響で将来運動音痴になるのではないか」というネット上の俗説も広く流布していますが、小児神経学および運動生理学の複数の追跡研究において、ハイハイを経験しなかったことと学童期の運動能力低下との直接的な因果関係は否定されています。赤ちゃんはつかまり立ちや伝い歩き、その後の外遊びを通じて十分に必要な体幹筋力とバランス感覚を補完していくため、過度な心配は不要です。