楽しい宴の終わり、炭火を素早く消そうとバケツの水を勢いよくグリルの炭に浴びせる光景を現場で見かけることがあります。しかし、消防機関やアウトドア専門家が一貫して「絶対にやってはならない」と強く警告しているのが、この水かけ消火です。その背景には、物理現象としての危険と設備の破損という2つの決定的な理由が存在します。
第一のリスクは、激しい「水蒸気爆発」と高温の灰・火の粉の飛散です。赤々と燃える木炭の表面温度は300℃〜600℃、芯部は800℃〜1000℃近くに達しています。この状態の炭に急激に水をかけると、水分が一瞬で沸騰して気化します。水は気体になると体積が約1,700倍に急膨張するため、凄まじい勢いで白煙とともに沸騰した熱泥水や砕け散った赤熱炭の破片が周囲数メートル四方に飛び散ります。これにより顔面や手腕に重度の火傷を負ったり、近隣のテントや衣服に着火したり、灰が目に入って角膜を損傷する事故が毎年のように救急搬送事例として報告されています。
第二に、急激な温度差による「グリルや焚き火台の熱変形・破損」です。鉄やステンレス、鋳鉄(ダッチオーブン素材など)は高温から急冷されると金属組織が耐えきれず、一瞬で歪みが生じたり亀裂が入ったりします。お気に入りの高価なBBQグリルが一度の水かけで修復不能になるケースは決して珍しくありません。どうしても水を使って消火しなければならない極限の緊急時であっても、「上からかける」のではなく「トングで炭を1本ずつ掴み、たっぷり水を張った金属バケツに静かに沈める」手順が鉄則です。