本作の真骨頂は、中盤までに散りばめられた無数の異変が怒涛のごとく噛み合う伏線回収の美しさにある。冒頭のカフェのシーンでテーブルに置かれたグラスの水滴、主人公の部屋に飾られた絵画の構図、さらには脇役が何気なく口にした「時計の針」の比喩。その一つひとつが、結末を知ったうえで再確認すると恐怖へと変貌する。
特に圧巻なのは、雨の夜の車内でのやり取りだ。一見すると他愛のない会話だが、バックミラーに映る照明の明滅パターンの暗号解読や、背後に流れるクラシック音楽の選曲まで、緻密な意図が隠されていた。リピーターが続出している理由は、この狂気とも言える細部へのこだわりにある。