熊外傷の治療を極めて困難にしているもうひとつの要因が、傷口の深部で爆発的に増殖する病原微生物です。熊の口腔内や爪の間には、土壌由来の菌や野生動物特有の常在菌が無数に存在しており、熊外傷の感染症リスクは一般的な外傷の比ではありません。
代表的な起因菌として知られるのが、犬や猫などの口腔内にも常在するCapnocytophaga canimorsus(カプノサイトファーガ・カニムソルサス)やPasteurella(パスツレラ)属菌、さらには土壌中に潜むClostridium(クロストリジウム)属などの嫌気性菌です。これらが挫滅した筋肉組織や血腫の内部に入り込むと、急速に組織を融解させ、壊死性筋膜炎や敗血症性ショックを引き起こします。
そのため、熊咬傷の治療法においては、創部を単に縫合することは厳禁とされています。初期治療では以下の処置が徹底されます。
壊死組織を徹底的に切除するデブリードマンを実施し、生理食塩水による数千ミリリットル単位の大量洗浄を行います。受傷直後に傷を完全に閉じてしまうと内部で嫌気性菌が急激に増殖するため、あえて傷を開放したまま管理する「開放創管理」や「遅延初期縫合」が選択されます。同時に、広域スペクトラムを持つ抗菌薬の点滴投与と、破傷風トキソイドワクチンの接種が標準治療として即座に開始されます。