温暖な気候と豊かな海に恵まれた静岡県熱海市は、古くから多くの文人墨客を引き寄せてきた。かつて谷崎潤一郎をはじめとする作家たちが滞在し、海の静けさと独特の情緒の中で名作を執筆したのは有名な話だ。街の路地裏や坂道には、いまも文学の香りがかすかに漂う。
日本の独自文化として発展してきた純喫茶は、こうした歴史と深く結びついている。日本純喫茶協会の資料をひもといても、戦後の高度経済成長期から昭和の黄金期にかけて生まれた店舗は、当時の職人によるオーダーメイドの家具やグラフィック照明を備えた贅沢な空間だった。時代が変わっても変えないことの価値。それが今、文化財級の価値として見直されている。