では、なぜあれほど不自然な麻原彰晃の写真が「なぜ浮いたのか」と社会的に騒がれ、本物の超能力として受け入れられてしまったのでしょうか。その背景には、1980年代半ばの日本社会を覆っていたオカルト・精神世界ブームと、メディア環境の存在がありました。
発端となったのは、オカルト雑誌『トワイライトゾーン』1985年11月号や、学研の超常現象専門誌『月刊ムー』1986年5月号に掲載された麻原彰晃の写真です。「ついに空中浮揚に成功!」という扇情的な見出しとともにグラビアを飾った写真は、サブカルチャーを愛好する若者たちの間に強烈なインパクトを与えました。当時の編集部サイドはエンターテインメントや未確認事象の紹介というスタンスであったものの、受け手側にとっては「権威ある雑誌に掲載された本物の超能力者」として映ってしまったのです。
当時の日本は、バブル経済へ向かう過熱期であると同時に、1999年のノストラダムスの大予言や終末論、ニューエイジ思想が急速に流行した時代でした。「物質的な豊かさだけでは満たされない精神的な飢餓感」を抱えた若者たちに対し、オウム真理教は「修行を積めば誰でも超能力(シッディ)を獲得できる」「自らの意識を進化させられる」という教義を提示しました。
単なる精神論ではなく、「写真という視覚的証拠」を提示されたことで、多くの人々が客観的なトリックを疑う前に感情的な確信を抱いてしまったのです。この一枚の写真が撒いた種は、やがて巨大な狂信集団を形成する導火線となっていきました。