時計の針を2013年8月11日、明治神宮野球場で行われた東京ヤクルトスワローズ対横浜DeNAベイスターズ戦に戻します。夏休みの日曜日、スタンドには大勢の家族連れや少年野球チームの子どもたちが詰めかけていました。試合前のセレモニーとしてアナウンスされたのは、当時ブレイクの真っ只中にあった壇蜜の登板でした。
スワローズのホーム用ユニフォームを身にまとい、背番号には自身の名前にちなんだ「32(ミツ)」、背ネームには「DANMITSU」と記された特別仕様の衣装でグラウンドに姿を現しました。ここまでは、通常のゲストタレントによる華やかな始球式そのものでした。
スタンドが凍りついたのは、彼女がマウンドに足を踏み入れた直後です。審判や捕手へ丁寧に一礼した後、羽織っていたユニフォームのボタンを突如外し、そのままグラウンドへと脱ぎ捨てたのです。下から現れたのは、布地の極めて少ないスクール水着風カッティングの紫がかったワンピース水着でした。グラウンド上を取り囲むカメラマンからは一斉に無数のシャッター音が鳴り響き、スタンドからは歓声とどよめき、そして困惑が入り混じった異様な地鳴りが湧き起こりました。
投球フォーム自体はぎこちないワンバウンド投球となりましたが、投げ終えた本人は何事もなかったかのように四方に深々とお辞儀をしてマウンドを降りました。プロ野球の神聖なグラウンドが、一瞬にしてグラビア撮影のスタジオへと変容した瞬間であり、これが後々まで語り継がれる神宮球場水着始球式事件の幕開けとなりました。