鼻の中で感じる悪臭は、発生源が「分泌物(膿や痂皮)の腐敗」にあるのか、それとも「においを感じる神経系の異常」にあるのかによって大きく大別されます。鼻の中が臭い原因と理由を突き止める第一歩は、自身が自覚しているにおいの性質を正確に分類することです。
まず、患者の訴えで最も頻度が高いものが「ドブ臭」「下水臭」「発酵したチーズのような臭い」です。この現象の裏には、ほぼ間違いなく副鼻腔炎(蓄膿症)悪臭の真相が存在します。頭蓋骨の内側にある空洞(副鼻腔)が細菌感染によって炎症を起こすと、自然孔と呼ばれる換気口が塞がれ、副鼻腔内に嫌気性菌(空気を嫌う細菌)が大量増殖します。好中球などの免疫細胞が細菌と戦って死滅した結果生じる多量の「膿(うみ)」が空洞内に滞留し、ドブのような腐敗臭を放ち始めるのです。この膿が鼻の奥から喉へと流れ落ちる後鼻漏(こうびろう)を起こすと、呼吸するたびに強烈なにおいが鼻腔へ逆流し、周囲に対しても強い口臭・鼻臭となって現れます。
一方で、「周囲に何もないのに物が焦げたようなにおいがする」「煙臭さや化学薬品のようなにおいが鼻の奥にへばりついて離れない」という訴えは、鼻の奥が焦げ臭い異臭症(嗅覚錯誤)に典型的な症状です。これは鼻腔内に悪臭物質が存在するのではなく、においを脳へ伝える嗅神経や嗅球の障害によって生じる知覚の誤作動です。ウイルス感染後や頭部打撲、慢性的な炎症、さらには過度な自律神経の乱れによって嗅覚センサーがダメージを受けると、無臭の空気や日常的な生活臭を「焦げ臭い」「煙臭い」という不快な信号として脳が誤認識してしまいます。
さらに、「生臭い」「カビ臭い」「腐った魚のようなにおい」を感じる場合は、副鼻腔真菌症(カビの感染)や、上の奥歯の根尖病変から上顎洞へ炎症が波及する「歯性上顎洞炎」が強く疑われます。特に真菌(アスペルギルスなど)が塊を形成すると、一般的な抗生剤が効かず、特有の強い腐敗臭と灰褐色の塊を伴う病態へと進行します。鼻の入り口付近がツンと痛んで油臭い場合は、毛根や皮脂腺に黄色ブドウ球菌が感染してかさぶたを作る鼻前庭炎(びぜんていえん)が疑われるなど、異臭のプロファイルごとに全く異なる病理が働いています。