家庭菜園の入門書には「ナスは水喰い虫」と頻繁に書かれています。しかし、農業試験場の実証データや第一線の生産者が証言するように、土が常に湿った過湿状態を維持することは、ナスの根毛を窒息死させる行為にほかなりません。植物の根は土壌中の水分を吸い上げると同時に、土塊の隙間にある酸素を取り込んで呼吸しています。水が常に満杯の状態では土中の気相率(空気の割合)がゼロに近づき、根は健全な代謝を維持できなくなります。
栽培者が最も陥りやすい失敗が、強い日差しを浴びて葉が下を向いた瞬間、慌てて水を与えてしまう行動です。ナスが日中に葉を垂らす現象には、強烈な蒸散から身を守るための生理的防衛反応と、土中の水分が実際に枯渇しているサインの2種類が存在します。後者のナス水不足しおれる決定的な理由は、日中の蒸散量に対して根からの吸水スピードが物理的に追いついていない点にあります。このとき土壌自体が湿っているにもかかわらず萎れている場合は、根腐れによって吸水機能そのものが麻痺している警告シグナルです。
水分が不足すると細胞の膨圧が失われ、光合成効率が急激に低下します。その結果、落花や「つやなし果(ボケナス)」、果実の肥大停止が引き起こされます。一方で、適度に土を乾かしてから十分な水を与えるサイクルを確立すると、根は水を求めて深く広く伸長し、環境ストレスに強い強靭な株へと育ちます。ただ漫然と水を流し込むのではなく、土中の空気と水を交互に入れ替える意識を持つことこそが、みずみずしく甘みのある果実を大量収穫するための出発点となります。