国際社会からの視線も厳しい。スイス・ジュネーブに本部を置く国連子どもの権利委員会は、過去の対日審査において、赤ちゃんポストに対して慎重な見解を示してきた。子どもの権利条約が定める「可能な限り実の親を知り、その親によって養育される権利」を侵害する恐れがあるとして、根本的な原因である望まない妊娠や貧困への公的支援を優先すべきだと勧告している。
こうした国際機関からの指摘と現場の切迫した要請の狭間で、国の対応は慎重を極めてきた。新設されたこども家庭庁は、孤立出産を防ぐための相談支援ガイドラインの策定や自治体向けの手引きを整備し、支援体制の底上げを図っている。予期せぬ妊娠に悩む女性を早期に把握し、公的相談窓口につなぐためのSNS相談事業などの拡充が進む。
だが、内密出産を国家の法体系として正式に位置づける抜本的な法制化には、法務省をはじめとする関係省庁との調整が難航し、依然として明確な結論を出せていない。命の選別や遺棄を助長させない厳格な法規範と、目前の命を即座に救う柔軟なセーフティネットの構築。この二律背反をいかに乗り越えるかが問われている。