SNSや医療相談窓口、消費生活センターには、歯科診療に関する切実なトラブル体験談が日々寄せられています。患者の生の声に耳を傾けると、医療現場と患者側の「認識のズレ」が深刻な被害を生んでいる構図が浮き彫りになります。
都内在住の40代会社員男性の手記には、次のような生々しい後悔が綴られています。
「虫歯の詰め物が取れただけで受診したのに、『奥歯も全滅に近いから全部セラミッククラウンにやり直しましょう』と言われ、トータルで120万円の見積もりを出された。断りづらい雰囲気のまま治療が始まり、神経を抜かれた歯が半年後に激痛を起こして転院。転院先のマイクロスコープで診てもらったところ、根の中に器具の破片が折れ残っており、治療の不備を指摘されて愕然としました」
こうしたトラブルが多発する背景には、日本の医療制度と歯科医院経営の構造的ジレンマがあります。日本の国民皆保険制度における歯科の診療報酬は、欧米諸国と比較して極めて低額に抑えられてきました。例えば、欧米で1回あたり15万〜20万円かかる精密根管治療が、日本の保険診療では数千円から1万円程度で提供されています。
その結果、保険診療だけで経営を成り立たせるためには「1人の患者に時間をかけず、多数の患者を回転させる」か、「利益率の高いインプラントやセラミック、マウスピース矯正などの自費診療へ誘導する」という経済的インセンティブが働いてしまいます。この構造を理解していないと、患者は過剰診療や粗雑な治療のターゲットにされてしまうのです。
医療社会学の観点から見れば、医療は典型的な「情報の非対称性(専門家と素人の圧倒的な知識格差)」が存在する領域です。患者側が「先生のお任せで」と盲従するパターナリズム(父権主義的医療)の姿勢を捨てない限り、質の低い医療から身を守ることはできません。