報道が駆け巡った当時、世間の誰もが耳を疑った。病院からの一時退院時、彼女が足を運んだのは最先端の医療リハビリ施設ではなく、都内にあるなべおさみ氏の自宅マンションだったからだ。
関係者の証言によれば、そこで行われていたのは「気」や「手かざし」と称される独特の施術。なべ氏自らが「患者の体から悪霊や病魔を抜き取る」と公言していた民間療法の一種である。ベッドの上で身体的・精神的に追い詰められていた若きアスリートにとって、その手が差し出されたタイミングはあまりにも絶妙であり、同時に危うさを孕んでいた。
科学的根拠を欠くアプローチに対し、水泳連盟や周囲の医療スタッフが強い懸念を示したのは当然の帰結だ。しかし、死の恐怖と対峙していた本人の心情を考えれば、提示された「希望の光」を遮断することは容易ではなかった。病室という閉鎖空間で生まれた依存関係は、急速にその密度を増していった。