小学校1年生で習う極めて初歩的な漢字でありながら、大人への抜き打ちテストで最も引っかかりやすいのが「右」と「左」の書き順の違いです。
- 「右」の書き順:1画目は「ノ(左払い)」、2画目は「一(横画)」、続いて下の「口」を書く。
- 「左」の書き順:1画目は「一(横画)」、2画目は「ノ(左払い)」、続いて下の「工」を書く。
形状が左右対称に近いこの2文字で、なぜ一画目が正反対になるのでしょうか。この疑問に対する答えは、古代中国の漢字の成り立ち(甲骨文字や金文)を紐解くと氷解します。 漢字学の大家である白川静氏の体系的な研究資料によると、「右」と「左」は本来、それぞれ人間の「右手」と「左手」の形をかたどった象形文字でした。 「右」の古代文字は右手を差し出した形を表し、そこへ神への祈りの祝詞を入れる器である「口(サイ)」を添えたものです。一方、「左」は左手を差し出した形に、儀礼で使う呪具や定規をかたどった「工」を持たせた姿を描いています。 古代の筆文字において、右手を描くときは手首から指先へ向かって上から左斜め下へ払う線(左払い)から書き始めるのが自然な運筆でした。対して、左手を描くときは指先を右方向へ伸ばす横のライン(横画)から筆を入れる構造になっていたのです。 また、書道における「横画と左払いが交差する場合の鉄則」として、次の基本原則が存在します。
- 左払いが長く、横画が短い場合(右など):左払いを先に書き、横画を短く締める。
- 横画が長く、左払いが短い場合(左など):横画を長く引いてから、内側へ短く払う。
楷書としての文字の重心を安定させ、視覚的な美しさを保つための合理性が、3000年以上の歴史を経て現在の筆順にそのまま受け継がれています。