ファンの間でも長年議論の的となってきたのが、「やれやれだぜ 元ネタ 真相」に関する出自の経緯だ。ネット上では様々な映画や古典ミステリーの引用説が飛び交っているが、一次資料となる荒木飛呂彦氏の過去の対談や自著『荒木飛呂彦の漫画術』等での証言を突き合わせると、その輪郭は極めて明確に浮かび上がる。
最大のインスピレーション源となったのは、米国の名優クリント・イーストウッドが演じたマカロニ・ウェスタンの『名無しの男』や、映画『ダーティハリー』シリーズのハリー・キャラハン刑事だ。荒木氏は承太郎を造形するにあたり、「何を考えているのか一見分かりにくいが、内面には確固たるルールと美学を持つ男」を理想像に掲げた。口数が少なく、感情を過剰に露わにしないタフガイ。彼らが葉巻をくわえながらトラブルを一瞥し、肩をすくめてみせるような乾いたシニシズムこそが、「やれやれだぜ」という言葉の原液となっている。
1989年に『週刊少年ジャンプ』でスターダストクルセイダースの連載が始まった当時、同誌の王道主人公は熱血と友情を前面に押し出すキャラクターが主流を占めていた。感情を爆発させて叫ぶ主人公たちに対するアンチテーゼとして、荒木氏はあえて「静寂」と「苛立ち」を纏う承太郎を投入した。当時の少年誌の常識を覆すクールなアプローチであり、その象徴として機能したのが、日常的な溜息をハードボイルドの銃撃戦へと接続する「やれやれだぜ」だったのだ。