本作のプロットを語る上で避けて通れないのが、宮沢賢治の名作童話『注文の多い料理店』との類似性です。山奥へ迷い込んだ都会の紳士たちが、立派な西洋料理店「山猫軒」に誘い込まれ、扉をくぐるたびに服を脱がされ、香水や塩を塗り込まれ、最終的に「自分たちが食べられる側だった」と気づくあの構造が、極めて高い解像度で踏襲されています。
作者の阿部隆大氏は、古今東西のフォークロアや童話文学への造詣が深く、本作においても古典文学の骨組みを現代的なポップスへ巧みに落とし込んでいます。人間が自然を消費する側から、森の営みの一部として消費される側へと立場を奪われる瞬間を描いた文学的オマージュであることは明白です。
ただし、宮沢賢治の原作と異なる決定的なポイントがあります。それは、訪れた客が恐怖に叫ぶ描写すら省略され、手嶌葵の穏やかで慈愛に満ちた歌声によって、あたかも「森に還ることは至極当然の幸福である」かのように物語が幕を閉じる点です。この静謐な肯定感こそが、童話以上の不気味さを醸し出す源泉となっています。