「特別なことは何もしていませんよ。ただ、当たり前のことを毎日愚直に繰り返しているだけです」。厨房で汗を拭いながら、店主は照れくさそうに笑う。しかし、その作業工程は途方もない労力に裏打ちされている。厳選された国産の豚骨と鶏ガラ、北海道産の昆布、そして数種類の削り節を独自の黄金比率でブレンドし、火加減を秒単位で調整しながら煮詰めていく。
特にこだわりを見せるのが、醤油タレの熟成プロセスだ。創業当時から継ぎ足されてきた秘伝のタレは、木樽の中で静かに時を重ね、角の取れたまろやかなコクを生み出す。「時代が変わっても、この暖簾をくぐったお客さんに『うまい』と言ってもらえる瞬間が一番の報酬」と語る店主の眼差しには、職人としての強いプライドが宿っていた。