インターネット上のコラムや知恵袋などで時折見かける「江戸時代からの正式な伝統では1貫=2個である」という言説。これは文化史的・学術的な視点から見ると明確な誤解です。
大手出版社が編纂する代表的な国語辞典の記述変遷を追うと、この誤解が広まったプロセスが克明に浮かび上がります。昭和後期から平成初期にかけて発行された一部の中型国語辞典において、「にぎり寿司を数える単位。通例2個を一貫という」といった解説が掲載された時期がありました。これは当時、街の寿司屋で「2個1皿」として注文を受ける商慣行が一般的だった現実を、辞書編纂者がそのまま記述に反映させたためです。
しかし、これに対して全国すし商生活衛生同業組合連合会や寿司文化研究者から「職人の現場実態と乖離している」との指摘が相次ぎました。その結果、2000年代以降の改訂版(『広辞苑』第7版や『大辞林』第4版など)では、「1個、または2個を1貫とする」「寿司の握りを数える語。1個、または2個一組をいう」といった、実態に即した柔軟な併記へと修正されています。
また、インバウンドの急増により、外国人観光客が寿司店を訪れる機会が日常化した現在、英語メニューの表記との整合性も無視できません。英語圏では寿司の個数は極めて合理的に「1 piece / 2 pieces」と表記されます。仮に店側が「1貫=2個」というルールで海外客に説明しようとすれば、「1 kan means 2 pieces, but 1 piece is half a kan」といった不毛な説明を強いることになり、現場の混乱を招くだけです。海外との往来が完全に日常化した今、国際標準の観点からも「現物1個=1貫(1 piece)」というシンプルな数え方がデファクトスタンダードとして定着しつつあります。