ならまちの風情ある街並みを歩くと、ふわりと漂う甘く香ばしい香りに引き寄せられます。奈良老舗和菓子 春日庵の代名詞ともいえる「さつま焼」は、一見すると愛らしい焼き芋のミニチュアのような形をしています。しかし、ひとくち口に運ぶと多くの人が驚きを覚えます。生地と餡の絶妙な調和の中に、素朴でありながら奥深い直火の風味が凝縮されているためです。
実を言えば、このさつま焼には原材料としてのさつまいもは一切使われていません。明治時代、高価で庶民の手に入りにくかった焼き芋の美味しさと形状にインスピレーションを受け、北海道産小豆の上質な漉し餡(こしあん)を小麦粉生地で包み込んで焼き上げた創作和菓子として誕生しました。さつまいもそのものを使わずに、焼き芋が持つほっくりとした温かみや香ばしさを職人技で再現するという、当時の粋な発想が原点にあります。
最大の特長は、竹輪(ちくわ)を焼くように一本一本長い竹串に生地を巻き付け、直火の上で回転させながら均一に手焼きしていく特殊な製法にあります。1階奥のガラス張り工房では職人が火加減を見極めながら丁寧に焼き上げる姿をガラス越しに見学でき、機械生産では決して出せない絶妙な焦げ目とパリッとした皮の食感が生み出されています。この丁寧な手仕事こそが、世代を超えて春日庵 さつま焼が愛され続ける本質的な理由です。