「威風堂々」という四字熟語を日本でこれほど普遍的なものにした立役者の一人が、イギリスの作曲家エドワード・エルガー(Sir Edward Elgar, 1857–1934)です。エルガー威風堂々楽曲解説において欠かせないのが、原題と名訳のドラマです。
エルガーが作曲した一連の演奏会用軍隊行進曲の英語原題は『Pomp and Circumstance Military Marches』です。直訳すれば「華麗と儀礼の行進曲」となりますが、このタイトル自体、ウィリアム・シェイクスピアの名作悲劇『オセロ』第3幕第3場の台詞「Pride, pomp, and circumstance of glorious war!(名誉ある戦争の誇り、華麗、そして儀礼よ!)」から引用されたものです。
明治期から大正期にかけて西洋クラシック音楽が日本に本格導入された際、日本の訳者たちはシェイクスピアの詩情とエルガーの壮麗な響きを汲み取り、漢語の伝統から「威風堂々」という極めて格調高い邦題を充てました。この翻訳の妙義が、威風堂々クラシック名曲の背景を語る上で今なお高く評価されています。
特に1901年に初演された第1番の中間部(トリオ)の旋律は、イギリス国王エドワード7世の提案によって歌詞がつけられ、『希望と栄光の国(Land of Hope and Glory)』として英国の「第2の国歌」と称されるほどの国民的愛唱歌となりました。毎年ロンドンで開催される世界最大のクラシック音楽祭「BBCプロムス」の最終夜(Last Night of the Proms)では、聴衆がユニオンジャックの旗を振りながら大合唱するのが不朽の伝統となっています。日本においても、卒業式や門出の式典で定番曲として演奏され続けており、言葉の持つ「威厳ある旅立ち」のイメージを決定づけました。