「100兆桁も計算して何に使うのか?」という疑問は当然湧く。しかし、工学や科学の実務現場では、驚くほど少ない桁数で十分な精度が得られる。例えば、NASA(アメリカ航空宇宙局)が惑星間探査機の航道計算や宇宙船の軌道投入を行う際、実務で使われる円周率は小数点以下15〜16桁程度に過ぎない。これだけの桁数があれば、地球から太陽系の果てまで航行する探査機の位置誤差を数センチ単位に抑え込むことができる。
一方で、カルチャーの世界において円周率は神秘的なモチーフとして愛されてきた。鬼才ダーレン・アロノフスキー監督の鮮烈なデビュー作である映画『π』(パイ)では、株式市場の規則性と円周率の神秘にとりつかれ狂気へ堕ちていく数学者の姿が描かれた。また、映画『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』では、主人公の少年が自らのあだ名「パイ」を定着させるために黒板いっぱいに円周率を書き連ねる印象的なシーンが登場する。映画や創作物の中で、円周率は常に「世界の根源的な秘密」を象徴するアイコンなのだ。