香炉峰の雪で簾を上げた理由は?定子と清少納言の知られざる真相

香炉峰の雪で簾を上げた理由は?定子と清少納言の知られざる真相

香炉峰の雪で簾を上げた理由は?定子と清少納言の知られざる真相について押さえておきたい 理由を分かりやすい構成で解説いたします。

清少納言が「それは白居易の詩に出てくる『簾を撥げて看る』の場面でございます」と言葉で返答しなかった理由にこそ、彼女の卓越した表現力と定子への敬愛が凝縮されています。

このやり取りの元ネタとなっているのは、平安貴族たちに絶大な人気を誇った唐代の大詩人・白居易(白楽天)の詩集『白氏文集(はくしもんじゅう)』に収められた七言律詩「香炉峰下新に山居を卜し草堂初めて成りて偶東壁に題す」の一節です。

【元ネタとなった白居易の詩句】
「遺愛寺の鐘は枕を欹(そばだ)てて聴き、香炉峰の雪は簾(すだれ)を撥(かか)げて看る」
(意味:遺愛寺の鐘の音は枕から頭を持ち上げて耳を澄まして聴き、香炉峰に積もる雪の景色は、手で簾を跳ね上げて眺めるのだ)

この漢詩は、病気療養のために隠棲した白居易が、雪景色の静寂と山居の優雅な生活を詠んだ名作です。平安時代の知識人層にとっては、現代で言えば義務教育の教科書に載っている誰もが知る名フレーズでした。

定子はこの詩を踏まえ、格子を下ろして外が見えない薄暗い部屋の中から、あえて「香炉峰の雪はどうかしら」と水を向けました。もし清少納言が知識をひけらかすように「詩の通りでございます」と言葉で答えてしまえば、単なる知ったかぶりの興ざめな解説に終わってしまいます。そこで清少納言は、自らは一言も発することなく、下仕えの者に命じて格子を上げさせ、自らの手で御簾をさっと高く巻き上げました。

つまり、「定子様、香炉峰の雪を見る作法は『簾を撥げて看る』ことでございます。どうぞ、目の前に広がる白銀の景色をご堪能ください」という回答を、身体言語(アクション)のみで完璧に演じて見せたのです。機転を利かせたパフォーマンスに定子は思わず微笑み、周囲の女房たちもその鮮やかな機知に感嘆せざるを得ませんでした。

前田 葵
著者

前田 葵

マーケティングと消費者心理のトレンドを分析し、現代のヒット商品の背景を読み解きます。