千切豹馬という人物の魅力は、単なる脚の速さだけではない。右膝の前十字靭帯断裂というアスリートにとって致命的ともいえる怪我を経験し、「また壊れるかもしれない」という恐怖と葛藤し続けた暗い陰がある。
西垣は、試合前半で見せるどこか冷めた眼差しと、過去の記憶に縛られて自分の走りを封印する痛々しいまでの葛藤を完璧に表現した。そして覚醒の瞬間。「俺は俺の走りに命を燃やす」と己のトラウマを打ち破るクライマックスで彼が見せた目力の強さと荒い息遣いは、観客の皮膚感覚に直撃した。単なるアクションショーではない、本格的な人間ドラマとして本作を引き上げた要因がそこにある。