インターネット上やファンの間で長年議論されてきた「井之頭五郎のモデル実在説」。結論から言えば、特定の単一人物がそのままモデルになっているわけではありません。原作者である久住昌之氏および作画を手掛けた故・谷口ジロー氏が過去の対談や手記で明かした証言によると、五郎というキャラクターは複数の要素が精緻に組み合わさって誕生した人物造形です。
久住氏によると、五郎の職業設定である「店舗を持たない輸入雑貨商」は、久住氏の周囲に実在したフリーランスのバイヤーやクリエイターたちの働き方がヒントになっています。特定の上司を持たず、商談の合間に見知らぬ街へふらりと立ち寄る行動様式は、組織に縛られない自由な大人のロールモデルとして構築されました。
一方、ビジュアル面を担当した谷口ジロー氏は、どこか哀愁と品格を漂わせるハードボイルドな大人の男をイメージして作画を行いました。長身でスーツを着こなし、古武道の心得があるという骨太な設定は、谷口氏が得意とする劇画的リアリズムの結晶です。つまり、井之頭五郎は「久住氏の日常的観察眼」と「谷口氏の重厚な美意識」が高度に融合して生まれた、リアリティ溢れる架空の人物なのです。