「栄誉ある」という言葉を語る上で欠かせない歴史的事象が、19世紀後半のイギリス外交方針を指す「栄誉ある孤立(スプレンディッド・アイソレーション / Splendid Isolation)」です。世界史の教科書にも太字で登場するこの語ですが、単なる美談ではなく、冷徹な大英帝国の国益計算が背景にありました。
当時のイギリスは、産業革命をいち早く達成し、「パクス・ブリタニカ」と呼ばれる世界覇権を確立していました。イギリス栄誉ある孤立の理由は、欧州大陸の恒常的な同盟関係に縛られることなく、圧倒的な海軍力と経済力を背景に「フリーハンド(外交的自由度)」を維持することにありました。大陸諸国が勢力均衡で争う中、一歩引いた位置から調停者として君臨し、自国の広大な海外植民地の防衛と通商利益の拡大に専念する戦略でした。
しかし、この「孤立」は永久には続きませんでした。19世紀末から20世紀初頭にかけ、ドイツ帝国の急速な工業化と艦隊建設、ロシア帝国の東アジアへの南下政策が進行すると、イギリスの単独覇権は急速に陰りを見せ始めます。
1899年に勃発した南アフリカ戦争(ボーア戦争)では、国際世論の激しい非難を浴び、外交的な完全孤立の危機に直面。その結果、イギリスは1902年に日本との間で日英同盟を締結し、半世紀近く維持した孤立政策に終止符を打ちました。「栄誉ある孤立の歴史と真相」が物語るのは、自給自足の力関係に基づかない「誇り」は、環境の変化によって脆くも崩れ去るという地政学的リアリズムです。